forget-me-not


「えーっ!?
ハノイの兄貴、ずるいっすよ」

「俺もイオちゃんがいいです」



ロキとエデンのブーイング。


ハノイは二人の迫力に少し怯んだ。

しかし、ここで退くようではリーダーは勤まらない…。



「駄目ーっ。駄目なもんは駄目。


俺、ウルド怖いもん。アルは何となく乗せる気分じゃないし」



頬を掻き、視線を反らすハノイ。

本人にしてみれば立派な理由を主張したつもりなのだが、こんなもので子分二人が納得するはずもなく…。



「兄貴っ。今日という今日は駄目っすよ」

「俺らはいつだって兄貴の我儘…聞いてきたじゃないですか。
今日くらいは……」




ブーイングの嵐は止むどころか、激しさを増すばかり。




遠巻きにその様子を伺っていた“乗せてもらう組”は思わず溜息。





「何で私の取り合いしてるわけ…?」



イオは苦笑い。


好かれていることは嬉しいけれど、何となく複雑。






「イオは人気者だな。

ウルド、複雑な気分だろ?」



アルの問いかけに、ウルドは深く頷いてみせた。










「ウルドの兄貴が怖いのは俺も同じ…。何てったって殴られたんすよ?」

「俺だって、あの紅い瞳に一睨みされたら飛べません」



ロキとエデンは口々に言い放つ。



「お前ら情けねぇなー。男が弱音吐いてんじゃねぇ」


「ちょ…っ。
ハノイの兄貴こそっ」



ヒートアップし続けるイオの取り合い。
このままでは埒があかない。





「――よし、仕方ない…じゃんけんだ」



ハノイがこう切り出すまで、かなりの時間を有したというのは言う迄もない。
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