forget-me-not
2
身体に感じる風。
目まぐるしく変わる景色。
太陽をいつもより近い場所で拝む…。
「うわーっ。凄い凄い。
こんな体験…一生に一度あるかないかだよ。
風が気持ちいい」
感動して大興奮のイオは、ロキの背の上で喚声を上げる。
「へへへっ。イオちゃんテンション高いねー。
俺じゃんけん勝ってよかったわ」
ロキはイオの為に急上昇や急降下を繰り返した。
その度、イオが嬉しそうにはしゃぐのでロキは得意になる。
「――おいロキ、あんま調子に乗ってイオちゃん落としたりするなよっ」
少し距離をおいて飛行するのはハノイとウルドペア。
この組み合わせはお約束。
「―――まさかお前の背に乗せてもらうことになるとはな……」
ウルドの呟きが背中から風に乗り、響いてきた。
「悪かったな、俺で」
ぶっきらぼうなハノイの言葉。
そんなハノイの反応も気にすることなく、ウルドは辺り一面、果てしなく広がる雲の海原を見ていた。
紅の双眼に映るは悲しげな程に澄んだ碧空。
「―――何急に静かになってんだよ……」
急に静かになった背中が気になり、振り返ったハノイの目が捉えたウルドの姿。
皮肉な程に整った顔立ちは無表情に、紅の瞳で遥か彼方を眺めていた。
何を考えているんだろう…。
ハノイはまた、前に向き直った。
双方無言のまま、羽ばたく翼の音だけが一定のリズムを生む。
気まずいこの状況。
やがて口を開いたのは、ウルドの方だった。
「―――お前に問いたいことがある…」
控えめに、ぽつり呟かれたウルドの言葉。
「ああ」
ハノイは前方に見える町を見据えたまま、静かに耳を傾けた。