forget-me-not
乾いた一陣のつむじ風が荒野を駆ける。
「――さぁ、そろそろお別れだ」
ハノイは赤く染まり始めた太陽を見ながら呟いた。
「ああ」
頷くウルドはふっとイオの方を見やった。
楽しそうな屈託のない笑顔。イオのいる場所はいつも笑顔に満ちている。
『イオの隣でいつまでも笑っていたい』
一緒の時間を過ごせば過ごすほど、望みは増え、心が苦しくなる。
確実に近付いてくる“幸せの終焉”。
抗うこともできずに、自分はみすみす闇に身を堕とすのか…。
内なる狂気は止められない。
この幸せはいつまでも続きはしないのだ。
この日常を壊してしまうのは、紛れもない自分自身。
「――――イオ…」
ただ一言。
小さく口ずさむ名。
誰にも届くことのないまま、つむじ風が攫っていく。
出会いがあれば別れがある。
始まりがあれば終わりがある。
同じことだ。
永遠なんてありはしないのだ。
わかっている。
わかっている。
わかっているのに、永遠を願ってしまう…。
なんて愚かなんだろう……。
ウルドの重いため息は、今度はつむじ風に攫われることなどなかった。