こらしめ屋
「じゃ、用も済んだし、帰るね。」
「あぁ。」
短くそう言うと、夏柑は片手を上げて手を振った。
あたしは夏柑に背を向けて、探偵事務所の扉のノブに手を掛けた。
これを回して外に出れば、もう会えなくなる。
夏柑にも、せっかく気づいた恋心にも、さよならになってしまう。
そう思うと、ノブに掛けた手に力が入らなかった。
回したくない。
夏柑ともっと居たい。
口ゲンカとか、ふざけあいとか…
今まで通りのことを明日もしたい。
「……っ…」
思えば想うほど悲しくって…胸が苦しくって…
気がつけば、あたしの瞳から涙がぽたぽたと流れ出していた。
回さなきゃ…
泣いてること、知られたくない。
「…ばいばい、夏柑。」
夏柑に背中を向けたままそう言って、どうにか手に力を込めて、ドアノブを回した。
カチャリと軽い音がして、あたしはノブを引く…