いちどてがふれた
 

 一音ずつ切って話す彼の言葉に、抵抗するようにいっそう小説の中に入り込む。
 こういうの、毎日してる気がする。
 目では文字を追いながら、ふと思った。


「羽澄(はずみ)?」


 いい加減言い飽きたら私の名前を呼ぶ事も。
 そのあと静かになって、まるで何事もなかったように…。


「ん?」


 チュッと、頬に何かが触れた。

 なかった様に…何した?
 軽く、本当にあったのかなかったのか解らないくらい、頬に掠っただけのような……、キス、なの?
 正面に、彼の顔があって。ちょっとだけ頬っぺたが染まってる気がして。けど満足げで。
 瞬きをしてもう一度見ると、目を反らされた。

 
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