いちどてがふれた
 

 そうやって私の顔を覗き込む彼の笑顔に、またときめ……くわけじゃない!


「永良、夏近いんだから暑いよ」


 漸く現実をひっぱりだせた。
 冷水でも被って頭冷やしたい。
 少しだけ、正気になれたかも。

 きょとんと目をまるくして、ぽかんと口を開ける彼。

 そんな彼に、空いてる右手でデコピンを食らわす。


「イテッ」


 痛さに驚いて彼が手を離したスキにさっと逃げる。


「ばっかじゃないの?」


 あれこれ文句が浮かぶけれど、その中で何故かこの言葉が出た。


「私にだって好きな人くらいいるんだから!」


 彼の表情がなくなったのをみて、私もはっとなってごまかす言葉を探したけれど見つからず、そのまま言い逃げする形になってしまった。


… … … … …

 
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