「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
「どけよ」
「どうして?」
「テレビが見えない。てか、お前の顔しか見えない」
杏奈はふふっと不敵に微笑むと、
「じゃ、私だけ見てて? んー」
わざとふざけた声を出して、膨よかで潤った唇を、俺のそれにギュウと押し付けてきた。
まるでガキ同士のキスだ。色気も何もあったもんじゃない。
無機質な俺の部屋も、コイツが居るだけで華やいで見えるこの不思議。
そして、この部屋についさっき訪ねてきたばかりの杏奈が、テレビを見ていた俺の胡坐の上に向き合うようにして跨っているこの不思議。
交わした会話と言えば、杏奈が着けていた真新しい腕時計についてぐらい。
「それシンプルでいいな」と褒めてやったら、「でしょー?」って。異常なぐらいのハイテンションで喜んでいた。