「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
「骨盤体操」

不意に杏奈が意味不明の単語を呟く。



「え? 何?」


「だから、毎日骨盤体操やってる」


「ああ、体系維持の話か。それ、聞いたことあるわ。効くの?」


「身体の中の筋肉を鍛えるから、女性らしい、しなやかなラインは維持しつつ引き締める効果がある……」


「へぇ……」


「……ってのがウリね。実際はわかんない。でも浩平が褒めてくれたから、効果あるのかな」


言って照れ臭そうにくしゃっと笑うと、俺の胸にむぎゅうと顔を押し付けてきた。



何ですか、これ。可愛過ぎます。



――――結局、結婚を意識させるってのは失敗に終わったけど、最愛の彼女を普段全く褒めてないという自分の怠慢さに気付けたことで、一歩前進した気になった。






翌日、ちょっと遅い朝飯を食べてすぐに家を出た。今日のデートは前々から約束していた動物園。


『パンダメイク事件』のせいで、動物園デートは何だかんだと一カ月近く延期になっていた。



当然だけど、子ども連れファミリーが至る所に散在し、どこに居ても何をしていても、子どもの姿が必ず視界に入ってくる。


そこで、作戦Bを決行。


杏奈がキリンが一番好きだって言うから、キリンコーナーに設置されているベンチに並んで腰を下ろす。


あの日顔にされた落書きが、『キリン』ではなく『パンダ』で良かったと、理由もなく思った。


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