「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
「月野さん! いくらなんでもそれ、女性に対して失礼過ぎじゃないですか?」

「いやでも……膨らみがなきゃ、それはオッパイでは……」

「えっ? 聞こえなかった。もう一回言ってください」

しっかり聞こえましたけど。


その時、小さな音を鳴らしてトイレのスライドドアがほんの少し開けられた。その隙間から大きな身体を滑り込ませて入って来たのは、浩平だった。


浩平は私をそっと後方へ押し退け、便座に座る月野さんと私の間に立ち塞がった。

「月野さん、オシッコ出ました?」

「ま、まだです」

「出ないんだったら、もう戻りましょうか?」

「いっ……いや、ちょっと待ってください。出そうです」

会話を交わしながらも浩平は、お尻のところで自分の右手をひらひらさせる。


月野さんに気付かれないように、私に「行け」と合図しているんだ。従うしかない私は、そろそろと狭い個室を後にした。

浩平は私に背中を向けていたからその表情は見えなかったけど、怒ってるかな。


怒ってるだろうな……。



案の定、月野さんの排泄介助を終えたらしい浩平は、

「米山さん、ちょっといい?」

昼食の準備を始めた私を呼び止めた。


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