「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
向山さんは、見た感じ40代前半ぐらいで、いつも笑顔の絶えない朗らかな女性。小柄なのに、仕事は迅速かつ丁寧で、しかもパワフル。私は密かに憧れていた。だから余計に、浩平の写真を見た後の向山さんの反応が怖かった。

「わぁ! 素敵!」

けれど向山さんは、手放しで絶賛してくれた。

「さすが、米山さんねぇ……」

心底感心したようにこぼして、スマートホンを私に返してきた。それを受け取れば、

「うちなんか、デブのチンチクリン、おまけにハゲ」

と言ってケラケラ笑う。どう返せばいいかわからず、愛想笑いで誤魔化した。

「でも、優しくて楽しい人だけどね」

と続けて、向山さんは幸せそうに微笑んだ。

「それ、大事なことですよね? 結婚って、一緒に暮らすわけですから、『優しくて楽しい』が必須条件になりますよね? 顔とかそういう見た目的なことは、後回しになりますよね?」

思わず力説してしまう。その余りの必死さに、周りはドン引き。けれど向山さんだけは、

「何言ってんの、米山さんの旦那さん、十分格好いいじゃない」

と、実に巧いことその場の空気を和ませてくれた。

「でもそうねぇ……見た目なんか、どーでもいいわよねぇ。一緒に暮らしていく上で、顔がいいのなんか、なんの役にも立たないからねぇ」

そう言って、向山さんは、こくこくと頷く。

「でも、子どもには影響するじゃないですか」

早川さんが、すかさず反論した。

「どんなんでも、自分の子って可愛いもんよー?」

「でも不細工に産まれたら、その子どもが可哀想じゃないですか?」

早川さんは、半ば躍起になっているようだ。


< 208 / 241 >

この作品をシェア

pagetop