「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
そんなのはものともせず、向山さんは宥めるような穏やかな口調で言う。

「不細工なら不細工で、中身を磨けばいいじゃない。そしたら自然とそれが外見にも滲み出るでしょ? 本当に魅力的な人って、そういう性格イケメンとか、性格美人じゃないのかな? 誰もがみーんな、結局、最終的には歳をとって、おじいちゃんおばあちゃんになるわけだし」

早川さんが、何も言い返せなくなったのか黙り込んだ。明らかにむっとしている。

「そういう早川さんは、どうなの? いい人、いないの?」

向山さんが、話題を変えた。それが意図的なのは、周りから見て明らかだった。早川さんは、うーんと少しだけ考える素振りを見せてから、言い辛そうに答えた。

「色んな人からしょっしゅう誘われるんですけど、私、理想が高いんですよねー」

「そっかぁ、早川さん、モテるんだぁ、可愛いもんねぇ」

と向山さん。

「そんなことないですよぉ。若いだけですって」

心なしか『若い』を強調したように聞こえたのは、私の僻み根性の賜物でしょうか。

「いやいや、可愛いって。ねぇ?」

と、向山さんが私に同意を求めてくる。

「はい。可愛いと思います」

こくこくと頷いて全力で肯定した。

「やめてくださいよぉ。そういう米山さんだって、モテたでしょ? それだけ美人なんだから。なのにどうして、今の旦那さんを選んだんですか?」

『なのにどうして』だと? その接続詞は不適切。絶対に不適切だ。けれどそんなツッコミは口にできるはずもなく、

「モテませんよ。付き合っても大概フラれます」

「えー?」

早川さんは、両手で口を塞いで、大袈裟に驚いてみせた。


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