「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
カタッと控えめに椅子を鳴らして、宇留野さんが静かに立ち上がった。

「早川さん、二人っきりで話そ?」

宇留野さんは、早川さんを真っ直ぐ見詰めてそう言った。

「はい……」

か細い声で返事をして、早川さんは、おずおずと立ち上がった。


休憩室を出る間際、宇留野さんはふと立ち止まって、私の方を振り返った。

「米山さんも、歯磨き、どうぞ」

そう言って、悪戯っぽく笑う。

全く、この人は……。彼の脳天気さに呆れながらも、そうします、とだけ返した。


二人が退室した途端、向山さんが、まるで今まで呼吸を止めていたかのように、深々と息を吐き出した。そして、

「あーびっくりした。いや、早川さんの気持ちは知ってたけど、それでもびっくりしたよね」

誰にともなく呟く。その場に居合わせたスタッフ全員の気持ちを、代弁したのかもしれない。皆が皆、激しく同意と言わんばかりに、頷いていた。


「そうだったんですね。知らず知らずのうちに私、早川さんを傷つけてたのかな」

突然に、後悔と恥ずかしさと、その他の色々な負の感情が、一気に押し寄せてきて、テーブルに両肘を立て、頭を抱えた。

「もぉー、どうしたら良かったの?」

思わず、不満チックな言葉が漏れ出た。


「気にすることないよ。米山さんは、なんにも悪くない」

そう声をかけてもらい、ゆるゆると顔を上げると、向山さんが屈託ない笑顔をこちらに向けていた。

「宇留ちゃんが米山さんに気があるのも、みーんな知ってる」

またその場の皆が頷く。


「えっ?」

当の本人は、全く気付いていないんですけど。言われて気づくことって、確かにあるけど、この場合、言われても全く信じられない。そんなはずないと思ってしまう。


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