「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
「あと、」

早川さんは、こちらの反応など気に留める様子なく続けた。

「『俺、好きでもない女の子を平気で抱けるぐらいには、クズ』とも言ってました」

「えっ?」

「ほんと、クズですよね?」

言って、早川さんは朗らかに笑う。すっかり吹っ切れて、清々しい笑顔の早川さんを見て、こちらもホッとした気持ちになる。目が覚めて、恋も冷めた。めでたし、めでたし。


「前よりもっと、ずっと、宇留野さんのこと好きになりました」

「えっ? どうして?」

「だって、嘘が吐けない人なんだなぁって。ってことは、誠実な人ってことですよね?」

「好きでもない女の子、平気で抱いちゃうんでしょ? それって、誠実じゃなくない?」

「米山さん! 男なんてみんな、欲望の塊ですよ? 宇留野さんだったら、女の方からバンバン寄ってくるじゃないですか? その中の一人、二人、抱いちゃったとしても、それは不可抗力のうちに入るんじゃないですか?」

「不可抗力……」

返す言葉がなかった。早川さんが展開した持論に、一理ある、などと納得してしまった。


言いたいことを全てぶちまけたらしい早川さんは、じゃ、と私に向かって右掌を見せると、すっきりした笑顔を残し、仕事に戻っていった。


早川さんの言葉が、頭の中で何度も勝手にリピートされる。

女の方から寄ってくるから、好きでもない女を抱いても、不可抗力? そうかなあ……。

それって裏を返せば、女の方からバンバン寄ってこない男が、好きでもない女を抱いたら、それは不可抗力ではない、不誠実ってことにならない?

そんなの、差別じゃない。イケメンとブサメンを差別しているじゃない。第二次南北戦争、勃発じゃない。やっぱり納得いかないわ、と、私の方だけ一方的にモヤモヤが残った。


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