「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
「ああ、ごめん。私も今帰って来たところで……」

言い訳しながら慌てて起き上がれば、

「謝んなよ、疲れてんだろ? 今日は外で飯食うか?」

浩平がその大きな右手で頭の天辺を撫でてくれた。彼は全てお見通しなのであった。いつだってそう。そんな浩平に、私は今まで数えきれないほど救われてきた。


「え? いいの?」

「今日さ、職場の子に美味しいタイ料理の店教えてもらってさぁ。お前、本格的なグリーンカレーが食べてみたいって前に言ってただろ?」

話しながら浩平は、リビングの隅に転がっていたトートバックを拾い上げ、その中から財布を抜き出しジーンズのバックポケットに押し込んだ。


「覚えててくれたんだ」

「忘れるわけねぇだろ」

浩平は可笑しそうに笑う。その笑顔を見たら、仕事の疲れなんか一気に吹き飛んだ。


「行きたい! 行こ行こっ!」

「わかった、わかったからはしゃぐなって」

そんなことを言いながらも浩平は嬉しそうな照れ笑いを見せた。


浩平が連れてきてくれたお店は相当人気があるらしく、大変な混みようだった。

店員の案内に従い用紙に名前と人数を記入して順番を待つ。待合スペースはとても狭く、設置されている椅子もぎっしぎしに人で埋まっていて、立っている場所もないほどだったので、仕方なく私たちは店の外で待つことにした。


「ちょっとこれは計算外」

残念そうに浩平が呟く。

「楽しみだね」

そんな浩平を見上げて思いっきり笑って見せた。本心からの言葉だったけど、そこでふと疑問に思う。

「浩平って、タイ料理好きだっけ?」

「ここまで来て、何それ?」

また浩平は可笑しそうに笑った。

「だって私はすっごく食べたいから待つのも全然苦じゃないけど、浩平はどうなのかなぁって急に思って」

「俺は食いもんに関しては一切好き嫌いないし、何でも食べてみたい派だから」

「『何でも食べてみたい派』って、初めて聞いたけど」

「だろうね。俺もそんなこと言ったの初めてだから」

そう言って浩平は可笑しそうに笑った。


< 220 / 241 >

この作品をシェア

pagetop