「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
彼女の視線を追えば、駐車場からこちらに向かって小走りしてくる女性がいた。

背の高さは普通、ぽってりと丸いシルエットが優しい印象の彼女。こちらの女性ははっきりと記憶にあった。

職場で顔を合わせると、いつも爽やかな笑顔で挨拶してくれた人だから覚えていた。

私たちの側まで来ると彼女は、

「米山さんと、奥さんの米山さん、ですよね?」

浩平と私に順に視線を向けながら言って、素敵笑顔を見せた。

「ああ、はい」

浩平は躊躇いがちに返事をして愛想笑いをする。竹之内さんから『薫ちゃん』と呼ばれている彼女の名字がわからず困っている様子だった。

「梅森薫です。初めまして……は、ちょっと違うかな」

私たち二人に向かって自ら名乗り、惜し気もなく満面の笑顔を見せた。

彼女の笑顔には、同性の私でさえ惹かれずにはいられない底知れない魅力があった。

巧く言い表せないけど、ずっと見詰めていたいような、ずっと傍にいたいような、そんな不思議な魅力だ。

「ああ、そうそう、梅森さん」

浩平が慌てて知っていた風を装ったけど、どう見たってわざとらしい。けれど梅森さんは、特に指摘するでもなく楽しそうに笑っただけだった。

「ゆめのちゃん、もう名前書いてきた?」

梅森さんが竹之内さんに問いかける。順番待ちの用紙に記入したかどうかの確認だろう。竹之内さんは、あっ、と小さく声を漏らし、右手であんぐり開いた自分の口を塞いだ。

「まだだった。ごめんなさい。米山さんに会えたのが嬉しくて舞い上がっちゃってた」

言って竹之内さんは申し訳なさそうに肩をすぼめた。

彼女が浩平に好意をもっていることは薄々感じてはいた。けれどここまでくると露骨過ぎる。

「いいのいいの、私行ってくる」

梅森さんは優しく笑んでそう言うと、すぐさま店内へ向かった。ぽっちゃりだけどフットワークの軽い梅森さんに、私は益々好印象を抱いた。

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