「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
「いやいや、罪でしょ。執行猶予なしの有罪でしょ。相手が私じゃなければいいよ? すきなだけご自分のお気持ちを放出してさしあげて? でも私は既婚者だから! そんな風にちょっかい出されて、私がその気になってるってもし思われたら本当に困る! 二人揃ってクビだよ? ねえ、わかる?」

こっちは興奮気味に必死で訴えているのに、宇留野さんは至極冷めた目で私のことを静かに見詰めていた。

「迷惑なんです」

この一言に尽きると思った。相手が不快に思ったら、それはもうセクハラですよ、とも言ってやりたかったけどやめた。宇留野さんに悪気はない。ただちょっぴり自信過剰なだけ。そして、都合よく遊ぶのに人妻がもってこいってだけ。

「じゃあ……」

ようやく口を開いた宇留野さんの顔は最上級レベルの無表情で、次にどんな言葉が続くのか想像もつかなかった。

「誰か紹介してくれない? めんどくさくない女の子」

「はあー? あと腐れなく遊びたいなら風俗でも行けばいいじゃん!」

なぜ私がこんなにもムキになって怒っているのか。自分で自分が嫌になる。あー嫌だ、イヤイヤッ。宇留野さん、こう言っちゃなんだけど、あなた本当にクズですね。でも面と向かっては言えないチキンハートな私。そして、

「プロはちょっと……」

微かに苦笑を浮かべて、宇留野さんが言いにくそうにボソボソ呟くもんだから、

「いい加減にしろー!」

私の怒りは爆発した。

「仕事以外のことで、二度と私に話しかけんなよ! わかったか?」

汚い言葉で怒鳴りつけた。でもやっぱり宇留野さんはへっちゃらで、

「どうだろ? できるかな、そんなこと」

と言って悪戯っぽく笑った。

すぐさま私は踵を返し階段を昇った。宇留野さんが追ってくる気配はなかった。どうやら時間差で病棟に戻ってくれるつもりみたいだ。

時間と共に私の怒りはどんどんしぼんでいき、いくらなんでもちょっと言い過ぎだったかな、なんて反省しちゃったりもして。宇留野さんは仕事がデキるからみんなに頼られていて、すごく忙しいのに。その貴重な時間を私のために使わせたことへの罪悪感も少し。

はあ……。気が付くとため息ばかりついている私がいた。


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