「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」

〔お互い様な二人〕

その日、夕飯を食べながら今日の宇留野さんとのやり取りを浩平に話した。

浩平は、「やっぱ口説かれてんじゃん」とかなんとか、そういうくだらなくてありきたりの言葉を当然のごとく口にした後、「でもまあ、安奈が俺以外の男に興味ないのは重々承知だから」と続けた。

そんな、私に対してだけ自信満々な浩平が好きで好きでたまらないので、宇留野さんのせいで積もり積もった鬱憤はすーっと消え去り、私の心は晴れ渡り満天青空だ。

浩平は唐揚げを頬張り咀嚼にいそしんでいたけど、突如はっと何かを思いついたように背筋を伸ばし、

「紹介してあげたら?」

と悪い笑みを浮かべて言う。この顔はきっとろくな提案じゃない。

「誰を?」

「竹之内さん」

「どうして竹之内さん?」

どういう思考回路でそうなったのか。お互いに求めているものが違い過ぎない? 正反対のような気すらしちゃうけど。

でも浩平はゆるぎない口調でこう言った。

「竹之内さんは誰かの妻じゃなく愛人であることを望んでるだろ? そんで、宇留野さんは都合よく遊べる彼女が欲しい、と」

「うん、だから?」

「だから! 愛人って、結婚してる男がなんの責任も負わず、ただただ欲望を満たしてくれる都合のいい女じゃん? そんな竹之内さんと宇留野さんが付き合えば、誰も傷つかなくてすむだろ?」

「ああ、なるほど」

「竹之内さんが付き合ってきたヤツの家庭がズタボロになるのを何度も見てきたからさ。奥さん可哀そうだなってずっと思ってた。まあ、竹之内さんの誘惑に負けるヤツが一番悪いんだけど」

「いいや、他人の旦那に手を出す竹之内さんが一番極悪非道」

「女は女に厳しい」

おお怖っ! とでも言いたげに、浩平は自分で自分を抱き締め身を震わせた。

「でも、ちょっと待って」

ふと頭に浮かんだ疑問。

「浩平が言う通り、二人が付き合えばそりゃあウィンウィンだけど……でも竹之内さん自身は都合よく遊ばれてるつもりなんか更々ないんじゃない? 下手したら、奥さんより自分の方が愛されてるとか、そんな錯覚すらしてるんじゃない? この前少し話しただけだけど、そういうのがひしひし伝わってきたんだけど」

「気の毒に」

浩平のそれは、心の底から憐れんでいるような呟きだった。こんな風に同情されているのを竹之内さんが知ったら、ものすごい屈辱を感じるのではないだろうか。だとしたらなおさら知らせてやりたい気がする、私性格悪いから。


< 232 / 241 >

この作品をシェア

pagetop