「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
翌日。

「竹之内さん、なんかすごい乗り気なんだけど」

浩平が帰宅するなり、心なしか興奮気味に言う。

「写真見せたの?」「見せた」「じゃあ、写真効果だね」

結局、宇留野さんクラスのイケメンに飛びつかない女なんていないんだ。やっぱり男は顔なんだろうか。顔がいいだけで女を幸せにできるとは到底思えないけど。

そもそも、男をイケメンとブサメンに分類するなんて、人種差別じゃないか。『イケメン』という言葉は、じゃない方の男性に対しての差別用語に認定すべきだ。


9月初旬。秋とは名ばかりで、まだまだ残暑が厳しい。照り付ける太陽の熱は容赦なく私たちの体力を奪う。

本日はとりあえずの顔合わせということで、テレビでも時々取り上げられるような、小粋なカフェで待ち合わせをした。

木製のテーブルに椅子、装飾品も最小限に抑えた、おしゃれだけど落ち着いた雰囲気のカフェ。ランチでもしながら少しお話して、その後は二人でどこへでも行ってちょだいなスタイルを私たちは勝手に計画していた。

浩平と私は20分も前に到着したので、もちろん一番乗り。先にアイスコーヒーを注文して、主役二人が来るのを待ち構えていた。

カランコロン……来客を知らせる鐘が鳴ったので、自然と入口に視線がいった。まずは竹之内さんの登場。綺麗めファッションに、ほんの少しカジュアルテイストをプラスした、相変わらずトレンドを抑えた装い。可愛い。

浩平が彼女に向かって手を大きく振りこちらの場所を知らせた。竹之内さんもそれに気づき、花がパッと咲くように笑顔になり手を振り返しながらこちらへ近づいて来る。

と、その後ろには梅森さんの姿が。なぜ?

浩平も私と同じ疑問を持ったようで、目の前まで来て挨拶する彼女たちを二人してポカンと眺めていたら、

「薫ちゃんがどうしてもって。写真の宇留野さんがあんまりイケメンだから」

と竹ノ内さん。すかさず梅森さんが「そんなこと言ってない!」と否定した。うん、梅森さんはそんなこと絶対言わないと思う。不必要に出しゃばる人では決してない。完全な濡れ衣だ。

「引き立て役に呼ばれたのよ」

と梅森さんは内緒話のように私に言うけど、わざと隣の竹之内さんにも聞こえるようにボリューム調整しているお茶目っぷり。

「違うってば! ちょっと不安だったからついてきてもらったのっ!」

言ってプウとふくれる竹之内さん。いちいち可愛くてムカつくわ。なので私の中に意地悪心がモコモコ湧いてきた。

「そうですよ。梅森さんじゃ引き立て役にならないですもん。梅森さんもとっても素敵です」

と言ってやった。でもこれは私の本心だけど。というか揺るぎない事実なんだけど、竹之内さんにしたらきっと面白くないだろう言葉だと思った。それを敢えて口にしてやった。

「もう、米山さん、優しい」

照れくさそうに、でも嬉しそうに笑って梅森さんは言った。対する竹之内さんは、

「そうでしょ? 薫ちゃんったら、いっつも誤解してるんだから」

と、私の言葉に口では同意しながらも、その笑顔は引きつっていた。


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