「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
カランコロン……再び鐘が鳴る。見ると背の高い細身の男性が入口で立ち止まり、店内をキョロキョロ見回していた。ようやく宇留野さん登場だ。

どこにでも売ってそうなTシャツ、デニム、ブルゾンで、街に出かければ五万と出会いそうな服装だ。それなのに、黙って佇んでいるだけで人目を惹くイケメンっぷり。

私がお尻を少し浮かせて宇留野さんに向かって右手を振り上げると、宇留野さんはすぐに気付いてくれた。私たちと向かい合わせに腰かけていた竹之内さんたちも、宇留野さんの方を振り返って軽く会釈した。

宇留野さんに竹之内さんの写真は見せていないから、宇留野さん側からしたら初見だった。

「俺も写真見たい」という宇留野さんの要求を、「あなたにそんな権利はない」とピシッと跳ねのけてやったのである。「すごく可愛い子だから安心して」と付け加えたら「女の『可愛い』ほどあてにならないものはない」と憎たらしいことを言ってきた。最終的には「嫌ならやめる?」の一言で宇留野さんを黙らせたけど。

彼女たちを見た宇留野さんは、驚いたようにほんの少し目を見開き立ち尽くす。知り合いなのかもと思った。職場が同じ系列だからどこかで会っていても不思議はない。

けれど竹ノ内さんたちは、「実物は何百倍もカッコいい!」などとささやきあって、静かに盛り上がっている様子。

「良かったね、ゆめのちゃん」「薫ちゃんありがとう」

お祝いの言葉まで交わす二人。まだ交際が成立したわけでもないのに気が早い。

宇留野さんは宇留野さんで一向にこちらにやってくる気配がないので、仕方なく私が席を立った。

「何やってんですか? 早く座りましょう」

近くまで行って声を掛けても、宇留野さんは竹之内さんを見詰めたままピクリとも動かない。「宇留野さん?」と肩を軽く叩いてみたら、ハッとしてようやく私を見た。

「知り合いですか?」

たずねると、いや、と短く否定。じゃあなんなの?

「やばい、ほんとに可愛かった」

「だからそう言ったじゃない」

「期待してなかったから、こんなやる気ない格好で来ちゃったけど大丈夫かな?」

いつも自信満々な宇留野さんがおどおどしている。

「どんな格好してても宇留野さんはカッコイイですって! さ、行きましょう。みんな待ってますよ」

宇留野さんの背後に周りこみ、背中を押して半ば強引に席へと誘導した。

「ちょっ、待って、心の準備が」

「そんなもん、家でしてきてよ」

なんなのこの宇留野さん、情けないったら。


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