「ねぇ米山くん、どうしてそんなに不細工なの?」
どうしよう。助けを求めて浩平を見ると、微かに両口角を上げて悪い笑みを浮かべている。まさかこの状況を楽しんでる?

「ちょっと宇留野さん! 今日は竹之内さんを紹介する目的でここに居るわけだから」

そんな私の言葉が宇留野さんに通用するはずもなく、

「目的がどうであれ今日、俺は、ここで、梅森さんと出会った。だからこの出会いを大切にしたい」

梅森さんを見詰めたまま熱く語る。ロマンチックに口説いているような口ぶりだけど、言葉自体は何のひねりもなく普通。恋愛初心者かよ。

とうとう竹之内さんが怒り心頭の様子で立ち上がった。

「帰る。薫ちゃんどいて」

梅森さんを見下ろして言う。

「待って、ゆめのちゃん。今日の主役じゃない」

「今日の主役は薫ちゃんでしょ? 薫ちゃんっていっつもそうだよね? 謙虚で控え目に見せかけといて、最終的には美味しいとこ全部持ってっちゃうんだから」

「え? 私がいつそんな……」

激昂していても、ちゃんと他人を陥れて自分を守ろうとする冷静さは持ち合わせているのだろうか。しかし宇留野さんはそんな竹之内さんの策略にも全く興味なしで、梅森さんに「通してあげたら?」などと平然とした顔で言う。

さすがに耐えかねたのか、浩平がようやく声を発した。

「竹之内さん、一旦座って」

浩平を振り返った竹之内さんの顔は、ありえないほど紅潮していた。

「座って」

もう一度、静かだけど有無を言わせぬ強い口調で浩平が言った。しぶしぶ腰を下ろす竹之内さん。

「急に帰るなんて失礼だろ? 大人のすることじゃないよね?」

さっきまでこの状況を内心楽しんでいたくせによく言うよ、と思うが正論ではある。

「宇留野さんの方が失礼じゃないですか?」

「どこが?」

宇留野さんではなく浩平が聞き返した。

「紹介されたのは私なのに、薫ちゃんにばっかり話しかけて、私の事は蔑ろにするんだから」

確かに。思わず納得してしまう。がしかし浩平は、

「紹介される女の子がもう一人女の子を連れてきて、そっちの子の方がタイプだったってだけの話だろ?」

ピシャリと言い放つ。そして更に問い詰めた。

「じゃあ、そもそもどうして梅森さんを連れてきたんだよ?」

答えられない質問だ。そうでしょ? 竹之内さん。

「それは……一人じゃ心細くて……」

「それならそれで別にいいけど、だったらこうなることも想定できただろ?」

浩平の口調が、だんだん私を説教する時のそれになってきた。


< 237 / 241 >

この作品をシェア

pagetop