16の月-過去に戻れたら‥【完結】



工場の入り口でかなり太ったオバサンが忙しなく働いている。

「あの‥」と声を掛けると、オバサンは驚いたがすぐに

「どちらさま?」と聞いてきた。

「石野由香里さんいらっしゃいますか‥?」
俺がそう尋ねると、オバサンは大きく首を振り

「ちょっと待っててね!」と工場の中へ走って行った。


しばらくすると、オバサンに背中を押されるように出てきた石野さん…
いや…高宮さん。

俺の顔を見て、驚いた表情をし、すぐに顔を横に背けた。


オバサンがニコリと俺に微笑みすぐに姿を消した。


2人の間に沈黙が流れる…


「…何しに来たんですか…?」
沈黙を破ったのは高宮さんだった‥


「あ‥いや‥この前、じっくり話せなかったし‥やっぱり‥
高宮さんだよね…?」と俺は尋ねる。


「…だったら何ですか‥?」
高宮さんが俺の顔を睨みつける。


「…あ‥いや‥その…元気だった‥?ハハハッ‥」
と引きつり笑いをする‥


高宮さんは僕を睨みつけたままだった‥


気まずい雰囲気が流れる…


「…幸せになんて、なってないから‥安心して下さい。」
高宮さんがそう言って頭を下げ、クルリと背を向けた。


俺は思わず息を飲む…


「…な、なに言ってるの?そんな事、見に来たわけじゃないし、
言いに来たわけでもないし‥むしろ、
元気でやってくれてたらいいなって思って…」

と言いかけた俺を再び振り返り…睨みつける‥。


「…私の事を見に来たんでしょ?
人の人生を滅茶苦茶にした犯罪者の娘が幸せに暮らしていないか
チェックしに来たんでしょ??
こんな汚い格好をしてこんな仕事しか出来なくて、満足だよね?
ね?ね?これで気が済んだ?気が済んだらもう帰って、
それから二度とここへ来ないで。」



一気にまくし立てた高宮さんは、そう言って工場へと戻って行った…。






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