マー君(原作)
それは社員全員――正確には四人に言ったのだが、やはり答えたのは携帯をいじっている男だけだった。彼は携帯を見つめたまま、ぽつりと漏らした。

「まあ……なくはないですよ」

「何が?」

三上が苛々しながら聞くと、男は顔を上げて堂々と言った。

「マー君の正体。確か――マー君に襲われても生きていた生存者がいたはずです。二人――。

一人は最近逮捕された水月雫。

もう一人は……俺の昔のクラスメートの上田良一。

この二人だけ、なぜかマー君に関わっていながら、生き延びています。ただ――上田良一にいたってはおかしな点があって」

そう言った男の顔には言い知れぬ自信が満ちていた。

三上は長年の編集の性から、この男に全てを託すことにした。

と言うより、内心もうどうでもよくなっていた。

半ば諦めかけていたが、やらずに後悔よりやって後悔を選ぶことにした。

「よし、お前に任せたぞ、洋太。しっかり調べてこい」

「えー、俺っすか、マジで?」

洋太と呼ばれた男は肩を落とした。

どうやらこの賭けは大負けで決まりそうだ。

三上は風船のような腹を掻いて、テーブルの上に置いてあったこち亀102巻を手にした。
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