マー君(原作)
<3>

「ねぇ、裕二は私のこと好き?」

喫茶店で紅茶を啜る青年――裕二は、目の前に座る女を一瞥した。

彼女は綺麗な黒髪に満面の笑みを浮かべこっちを見ている。

しかも、前かがみになってだ。

何がよくてそんなにこっちを見ているかわからないが、目障りこの上ない。

まるで目の前を執拗に飛び回る蝿のように、不愉快さを感じさせられる。

それほど見つめられていても見返すことはない。

ただマグカップの中を満たしている茶色い液体を見下ろし続ける。

「ああ、好きだよ。理香が一番好きだよ。誰よりも」

いつも言っている言葉を無理矢理吐き出す。

その言葉を聞いた女――理香は喜び自分の前に置かれているチョコケーキにフォークの先を突き刺す。

裕二はそんな理香を哀れみ、すぐ隣にあるガラス張りの壁を見つめる。

ここから道行く人が見える。

皆忙しそうに歩き、すれ違う。

近くに横断歩道が見える。

子連れの母親が信号待ちをしている。

その他、さっきから道行く人がこっちをちらちら見てくる。

そんな視線を浴びながら、裕二はまた紅茶を啜った。

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