マー君(原作)
気づくと、前の席に座り、こっちを見ている女友達が囁いていた。

そこで、春香は視線を友達に戻し、無理に笑ってみせた。

いつものように偽りの仮面を被って。

「う、ううん、なんでもない」

首を微かに左右に振る。

そうだ、私はクラスの人気者。

誰にも好かれるためには、この仮面をつけ続け、自分を隠さなければならない。

皆だってそうだ。

皆も偽りの仮面をつけ、ごまかしている。

いじめが起きているのに、仮面をつけ、見てないふりをする。それが正しいのだと思っているから。

けど、やっぱり違う。

それはただの逃げなのだ。

でも、私には仮面をはがす勇気などあるはずもないのだ。

春香はそれ以降坂子の方を向こうとはしなかった。

いや、向けなかった。

偽りの仮面をつけている以上、あと一歩が踏み出せなかった。
< 42 / 604 >

この作品をシェア

pagetop