マー君(原作)
私は強い……人間。

春香はにやりと笑うと、ネットの世界に心を委ねた。

ちょうど電車が止まり、ドアが開いた所だった。

だが、誰も降りない。

春香は勿論、あの気味の悪い女も――。

長い沈黙が続く。

夕日が車内を容赦なく照らす。

その夕日を全身に浴びたまま二人はぴくりとも動かない。

まるで警戒しあうように間合いを取って固まっている。

開いたドアから聞えるのは蝉の鳴き声――。

もう夕暮れというのに、どこかで蝉が鳴いている。

そうして時間だけがただ過ぎていき、ベルが鳴ると再びドアは閉ざされた。

電車はまた動き出す。

ゆっくりとゆっくりと――。
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