深層融解self‐tormenting◆番外編◆
後は華音が庵の毒牙にかかってない事を願うばかりだ。




鷹嘴サンに促されて助手席に乗った。


クラブの名前を告げて、粗方の場所を伝えたが鷹嘴サンは「ああ、あそこな」なんぞと嘯いた。


「場所は知ってるんスか?」

「まあ、大体の店の名前とオーナー達は顔見知りだな」



……おいおい、どんだけ顔広いんだよこの人。ほとんど昔の仲間とかそんなとこだろうけど。



「……雲母はよ」


運転しながら、鷹嘴サンが呟くように呟いた。


俺に聞かせると言うより、一人言のような口調で。



「お前ぇと付き合うまでは、凱の名前に守られてきたようなもんだ。あの戦闘馬鹿の妹に手ぇ出したら後が怖いからな。雲母自身のガードも固ぇが……」

「今でも固てーよ」



ツンデレだし。たまにしかデレてくんないから甘々にはなりにくいし。



「……ガードは固いが、一旦その警戒を解いちまったら後は弛い。よく見りゃ危なっかしいヤツだと思うがな」

「アンタに言われなくても…!」


知ってるっつーの!華音は凱のせいで昔から不良に絡まれたりしてきたから、やたらガードが固くてツンケンせざるを得なくなった事ぐらい。



「なら、目を離してんじゃねぇよ。うっかり手を離した時にはもう遅い、なんて事になっても知らねぇぞ」



淡々と話す鷹嘴サンに、何も言えなくなる。



……確かに、最近はお互いに…と言うより、俺が前より華音に構ってる時間が少なくなったかも、とは薄々自分でも気付いてた。


けど、それをこの人に言われんのは癪に障る。



「ご忠告あざす。で、それ経験談?」


せめてもの反撃は、無言で返された。
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