オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
サッカーで鍛えられた脚力を持っている葉司からすれば、ちょっと速めに走っているだけなのだろうけれど、あたしには速い速い……!
歩きながらって言ったじゃん!という文句も言えないほど、呼吸だけで精一杯だった。
やがて、電車に乗って降り立った駅は、オタクの聖地と称される街・アキバ原。
電車の中で葉司はどこに向かっているかを話してくれようとしたのだけれど、声でバレる!ととっさに思ったあたしは、それを断り、空いた席に座らせてくれたバカデカい女子高生をキッと睨み上げていただけだった。
「ごめん、また走るよ」
「……」
改札を抜け、外の空気を吸ったのもつかの間。
また走ると言われてうんざりのあたしは、そっぽを向いたままコクリと頷き、しかし走り出す葉司を見失わないように全力で追いかける。
そうして、息も絶え絶えになりながらもたどり着いたのは、雑居ビルの7階に位置する、とある一軒のカフェだった。
『オトコの娘カフェ ねこみみ。』
というのが、どうやら葉司の目的地らしい。
だって、そのプレートがかかったドアの前から動かないんだもの、なかなか認めがたい事実ではあるけれど、腹をくくるほかないようだ。