オトコの娘。*彼氏、ときどき、女の子!?*
「奈々、あれ、絶対メルさんの裸見る気だよ。この間のバレンタインのとき、チョコを作ってくれって呼び出されたんだけど、すでに全身がチョコだらけでね。出勤日だっていうから、お風呂上がりのメルさん、見たんだよね」
「それ、メルから聞いて知ってる。てか、止めてくれよー、野宮さん……っ!」
「あはははっ」
奈々の魂胆なんて、丸分かりなのだ。
3人で決めたこと、というのも、もちろんあるけれど、おそらく今の奈々の脳内は、メルさんの裸で9割9分を占めているに違いない。
頑張れ、メルさん!野宮さん……!
「さて、車も見えなくなったことだし、俺たちもそろそろ行こっか。手、繋ご?」
「うん!」
すっと差し出された葉司の手を取り、あたしたちは、すれ違う人が振り返ったり、二度見しながら通り過ぎていくのを、優越感に感じながら雑踏の中を堂々と歩いていく。
3人で決めたこと、というのは、奈々はメルさんのお屋敷に連れて行ってもらい、葉司は愛菜のまま……つまりは、オトコの娘の格好のまま、あたしとデートに繰り出すことだった。
さっき、あたしたちを見るなり野宮さんが葉司のことを「愛菜様」と呼んだのは、けして、お店での呼び名に倣ったからだけではない。