黒蝶は闇で輝く
「只今帰りましたー!」
「おお、お帰り。麗香嬢。」
「三上さん…。いつもお出迎えありがとうございます。」
学校も終わって、今日は本会議だから本会議に出ている桂木さんは迎えに来なくて(来ないで大丈夫です、って私が言ったの)、だから久しぶりに歩いて家に帰ってきた。
御堂の人がいると慧は私の半歩後ろに付くけど、2人だけのときは当たり前のように隣を歩く。
帰り道は特に会話はなかった。それでも、嫌な感じはしない。
門をくぐって声を掛けると、車椅子の三上隆二(ミカミリュウジ)さんが庭にいた。御堂組の最年長、53歳。
「三上さん、あんまり外にいるのは良くないと思いますよ?」
「麗香嬢を誰よりも早く出迎えるのが、今の唯一の楽しみだ、ってのに…。この老いぼれの楽しみを奪う気かい?まぁ、そういうところはお父さんに似たのかねえ…」
「嬉しいですけど…三上さんに何かあったら困るんですって。」
「……死にはしないさ。まだ死ねない。…お父さんに頼まれてるんだから、麗香嬢の花嫁姿を見てくれ、って。」
「はいはい、わかりました。さあ、家に入りましょうねー」
三上さんが車椅子なのは、御堂組の内部抗争に巻き込まれたからだと聞いた。
父がトップだったころ、組織が大きいのが仇となったみたいで、各支部で格差が生まれた。
本部との繋がりが強いほど信頼が厚く、お金もいい。そんな感じに。
この世界ではよくあることだけど、その時は丁度新組員が増えていたときで、そういう仕組みがわかっていなかった人たちが本部に攻めてきた。
その時、お父さんを守ろうとした三上さんは両脚を銃で撃たれて歩けなくなってしまった。
私が幼かった頃、何気なく“何故車椅子なのか”と三上さんに聞いたときに教えてくれた。
「本会議はどうなってるかね?」
「朝桂木さんと話しましたが、西側が気になりますね。…あ、お昼にシンさんとも同じようなことを話して…」
「どうしたんだろうね、西側をおさめてるのは誰だったか…」
「御堂組全体が落ち着きありませんけどね、今は。」
「……私がもっと元気だったらねえ」
慧が三上さんの車椅子を押して家の中に入った後に続いた。
リビングに上がると、三上さんは慧を止めて自分で大きな窓の方に近付いて行った。日当たりもよく、庭もよく見えるからと三上さんは好んでこの場所にいる。
今では三上さんの特等席だ。
遠くの方を見ながら、目を細める三上さんは今ではすっかり、優しそうなおじいさんだけど、すっと細めた目の鋭さは誰よりも冷たく重い。
そんな三上さんも、御堂組を愛する一人である。