黒蝶は闇で輝く
私が案を出したのは5月の序盤のことだった。
5月の中旬には具体的な案に直されて、西側で私の案は取り入れられた。
それからつい昨日まで、何もなかった。本当に何も。
「お嬢、急で申し訳ありませんが、これから大阪と京都に行ってきます。」
「…え、これから?ですか?」
「あーうん。やっぱり、早いうちに相手の様子はわかっておいた方がいいだろうって。」
「それにしても急すぎます。私だってまだ学校が」
「お嬢は、夏休み入ったら合流な?」
「…そんな。だったら私も今日行きます。」
「勉強が最優先です。…きっと、そんなすぐにはこっちに力は及ばないと思います。私があっちに行って、出来る限り力を尽くしますから。」
「安心しな、麗香嬢。絶対に守ってやるよ。」
話してる間に、本部の他の人たちが大きめの荷物を持って集まってきた。
何人か連れて行くことも、何も悪くないけど、でも私だけ置いて行かれるのは嫌だった。
非公開だとしても、私がここのトップだから。
でも、桂木さんは冷静に告げたんだ。
「お嬢は夏休みに入り次第、京都の別荘の方へ慧といらしてください。そこなら、御堂のものとは公開していないので、襲われる危険もありません。とりあえず今日は、10人程連れて行きますが、順々に人を呼びますがよろしいでしょうか?」
「…任せます、皆さんに。」
「では、そういうことで。お嬢、状況が変わっても堂々としているように。お嬢は御堂の大切なお方ですが、世間から見たら“藤崎麗香”なのですから。」
御堂の名前は目立ち過ぎると、普段の私は“藤崎”として通っている。
藤崎はアパレル関係の大手企業で、藤崎の名前を使って御堂が経営しているもの。こっちの取締役は、三上さん。
桂木さんがこの話を出すとき、“藤崎”の名前を出すときは、今は御堂に関わるなというサインだ。
……それだけ危険、っていうことなんだろうけど。