黒蝶は闇で輝く
「では、テスト頑張ってくださいね。」
そんな言葉を残して、桂木さんとシンさん、カイさんは他の本部の人数名をつれて、家を出て行った。
唯一、三上さんは車椅子で、藤崎の方の仕事もあるということで残った。
寂しそうな瞳で皆が居なくなった玄関を見つめて、三上さんは溜め息をついた。
「つまんないね。」
「…何が?」
「いや、麗がつまんなそうだったから俺もつまんないなーって思って。」
「つまんないよ、本当に。…私だけ、除け者みたいで。」
「別に、除け者にしてるわけじゃないだろ?お前の身を案じてのことなんだろうし。」
机の上に広げてあった教科書やらノートやらを慧が片付けながら、静かに話す。
慧とはもう、物心ついたときから一緒にいたから何をするにも気は使わない。
突然付き人になったときは驚いたけど、一緒にいる時間が増えるくらいで他はなんら変わりなく生活出来ているから、慧の存在をここまでしっかりと感じるのは久しぶりだった。
口数は少ない方で、組の人がいるとさらに喋らないから、余計。
「ま、気にすんなって。俺がいるし。」
「…そういう問題じゃないの。」
「確かに麗は御堂のトップだけど、それ以前に学生なんだから、勉強すんのは当たり前だろ。」
「慧最近、桂木さんっぽくなってきたよね。」
「付き人は主を甘やかすだけが仕事じゃねえの。」
「へー、慧、これが仕事っていう意識持ってやってたの?」
「……何でそんなに機嫌悪いんだよ。」
「悪くないし。」
基本的に、いつでも私の味方だった慧。
お父さんに怒られたとき、桂木さんに厳しく指導されたとき、いつも慧は私に「わかるよ、その気持ち」と言ってくれた。味方、してくれた。
でもここ最近、御堂のことに積極的に関わろうとする私を慧は良く思っていないらしい。わざわざ、私がイヤなことを言う、私の気持ちや意見と反対なことを言ってくる。
……それが、ムカつく。
「どこ行くの?」
「買い物。ご飯の、」
「俺も行くよ」
「好きにすれば?」
少し、ほっといて欲しい気持ちがあったけど、これが慧の仕事だし、荷物持たせればいいかと、気にしないことにした。