黒蝶は闇で輝く
「………あつ」
「うあーあちーなんだこれ」
夏休みに入った。
というか、今日、ついさっき終業式を終えて新幹線で来た。
ここ、京都に。
東京の暑さもなかなかだったけど、ここの暑さもなかなか。東京のようなジメジメや照り返しは少ないような気もするけれど。
夏休み直前に起こった、御堂組には今世紀最大かもしれない大事件。
ずっと抱えていた“寄生虫”神永組がついに、御堂から出て、その瞬間喰われてしまった。
いつか来るだろうとは思っていたものの、資金や組員、御堂の情報全部持って行かれたことはやっぱり大きかった。
「………麗?」
「…ぁ、ん?ごめん」
「とりあえず、入るか。」
「そうだね、暑いし。」
そんなことを考えている間に、駅前で慧が拾ったタクシーは“藤崎”の所有する別荘へ到着した。
無駄に大きな別荘は、平屋建てで大きな日本庭園がついている。
京都の雰囲気に合う、日本の古きよき“和”を基調としたデザインに、少し今風のテイストが混ざっていて、なかなかお洒落な外観だと思う。
「あれ、桂木さんとかいねーの?」
「“御堂”の人間は出入り禁止なの。おかしいでしょ、“藤崎”の所有物に“御堂”がうろちょろしてたら。」
「はいはい、そうですね。」
「桂木さんやシンさんたちは別の別荘にいるはずだから。時期を見て会う予定になってるけど……」
「予定は未定ってやつだな。俺でもわかるもん、この嫌な感じ。」
「…慧は野性的だからね。」
京都入りしてから、まだそう時間が経ったわけじゃないけれど、京都の町は落ち着きがないように感じる。
新幹線降りた時から、タクシーに乗った時も、そして今も、いつもの京都とは思えないピリピリとした空気を私も慧も感じとっていた。
私が御堂の人だなんて普通の人間ならわかりもしないことだけど、油断は出来ない。
慧も珍しく、周りに目を光らしてる様子だ。
「…心配はいらない。俺が、守るから。」
「頼りにしてるよ、実は。」
「知ってる。」
平屋建ての準日本家屋には似合わないセキュリティーを解除すると、大きな門が開いた。