黒蝶は闇で輝く
「おはようございます、桂木さん。」
「敬語はやめてくださいと言っているじゃないですか…」
「桂木さんにはお世話になってますから。」
家の大きな門をくぐってそばに停められていた黒塗りの車に乗り込んだ。
運転席には優しそうな雰囲気を纏った桂木仁(カツラギジン)さん。
父がトップの時から付き合いで、事実、父のような存在。
優しい雰囲気とは対象的に鋭い瞳を光らせて、御堂組を仕切る幹部のひとりでもある。
「慧、お嬢に無礼はしてないだろうね?」
「俺には敬語じゃないんですか?」
「お前に敬語を遣う必要なんてないからな。」
「だってー、麗。」
「……お嬢、慧を車から落としても宜しいでしょうか?」
「多分、慧はそれくらいじゃ死なないと思います。」
慧は私の付き人。
父がもしもの時に、と書いていた遺書に書いてあったのだ。
“本郷慧を娘の付き人に任命する”と。
本郷家というのが、御堂組と深い関わりのある家で代々色々な形で組に介入している。
今回は、私の付き人。私だけ、の。
ややこしいことだけれど、慧は御堂組の組員ではないことになっているから、御堂組の会合や今日の本会議には参加しない。
私の行くところについて来て、私だけに従い、私だけを護るのが彼の役目。
けれど、こうして御堂組組員にわりと可愛がられている。