渡り廊下を渡ったら
「君は・・・」
低い声で、ゆっくりと紡がれた呼びかけに、私もゆっくりと振り向く。
同じ姿勢を続けていたからか、背中と首がガチガチだ。
「・・・はい」
見れば、団長もこちらを見ていた。
真っ直ぐな瞳に、否応なしに鼓動が跳ねる。
「君は、私が怖くないと言ったな」
唸るような、低い声に変わったのが分かって、私は小首を傾げた。
何か、言いにくいことでもあるのだろうか。
「全くもって、怖くないです。
・・・すみません」
真意を測りかねるけれど、とりあえず、思っていることを告げておくことにする。
「あぁでも、今のその顔はちょっと怖いと思います。
子どもだったら泣いてます」
眉間のしわは、やっぱりない方がいいと思う。せっかく男前なのだから。
すると彼は、ふ、と困ったように苦笑した。
・・・そんなカオもするのか。
「・・・私、何か変なこと言いました?」
笑われた理由が思い当たらず、つい咎めるような口調になってしまった私に、彼が表情を和らげたまま話す。
「すまない、つい。
・・・院長には感謝しなくてはいけないな・・・」
「え?」
思いがけない言葉が彼の口から出て、私は一瞬ぽかんとしてしまった。
どうして院長の名前が出てきたのか、全く理解出来なかったのだ。
「・・・いや、こちらの話だ。
もちろん君にも感謝している。
久しぶりに、身体的にも精神的にも寛げた気がする。君のおかげで」
彼は、私よりも多くの書類を仕分けていたはずなのに、もう終わってしまっていたようだ。
実は1人でも十分こなせた量だったのでは、なんて、変に勘繰ってしまう。
その彼は、私の手を凝視していた時とは全く違う、温度を感じさせる目つきでこちらをじっと見つめている。
私の中の何かを探るような、深い思慮を含んだ目だった。
「じゃあ、感謝状でもいただこうかなー。
きっと一生のうちで騎士団の団長に感謝されることなんて、ないですもんねー」
いつになく真剣な様子に居心地の悪さを感じた私は、わざと明るく、明後日の方を向いた。
・・・あまり見つめないで欲しい。
「あぁ、送りたいくらいだ。でも、感謝状は王都に帰らないと用意できそうもない」
団長はそう言って、立ち上がった。
そしてゆっくりと壁にかけてあった剣を、鞘から抜いて、私に近づいてきた。
彼の表情が穏やかなままだったから、抜き身の剣だなんて物騒な物を目にしても、特に警戒することもなく、私は彼の挙動を見守る。
すると彼は、剣の柄の一部分を針金のようなものでつついて、青いコインのようなものを外した。
低い声で、ゆっくりと紡がれた呼びかけに、私もゆっくりと振り向く。
同じ姿勢を続けていたからか、背中と首がガチガチだ。
「・・・はい」
見れば、団長もこちらを見ていた。
真っ直ぐな瞳に、否応なしに鼓動が跳ねる。
「君は、私が怖くないと言ったな」
唸るような、低い声に変わったのが分かって、私は小首を傾げた。
何か、言いにくいことでもあるのだろうか。
「全くもって、怖くないです。
・・・すみません」
真意を測りかねるけれど、とりあえず、思っていることを告げておくことにする。
「あぁでも、今のその顔はちょっと怖いと思います。
子どもだったら泣いてます」
眉間のしわは、やっぱりない方がいいと思う。せっかく男前なのだから。
すると彼は、ふ、と困ったように苦笑した。
・・・そんなカオもするのか。
「・・・私、何か変なこと言いました?」
笑われた理由が思い当たらず、つい咎めるような口調になってしまった私に、彼が表情を和らげたまま話す。
「すまない、つい。
・・・院長には感謝しなくてはいけないな・・・」
「え?」
思いがけない言葉が彼の口から出て、私は一瞬ぽかんとしてしまった。
どうして院長の名前が出てきたのか、全く理解出来なかったのだ。
「・・・いや、こちらの話だ。
もちろん君にも感謝している。
久しぶりに、身体的にも精神的にも寛げた気がする。君のおかげで」
彼は、私よりも多くの書類を仕分けていたはずなのに、もう終わってしまっていたようだ。
実は1人でも十分こなせた量だったのでは、なんて、変に勘繰ってしまう。
その彼は、私の手を凝視していた時とは全く違う、温度を感じさせる目つきでこちらをじっと見つめている。
私の中の何かを探るような、深い思慮を含んだ目だった。
「じゃあ、感謝状でもいただこうかなー。
きっと一生のうちで騎士団の団長に感謝されることなんて、ないですもんねー」
いつになく真剣な様子に居心地の悪さを感じた私は、わざと明るく、明後日の方を向いた。
・・・あまり見つめないで欲しい。
「あぁ、送りたいくらいだ。でも、感謝状は王都に帰らないと用意できそうもない」
団長はそう言って、立ち上がった。
そしてゆっくりと壁にかけてあった剣を、鞘から抜いて、私に近づいてきた。
彼の表情が穏やかなままだったから、抜き身の剣だなんて物騒な物を目にしても、特に警戒することもなく、私は彼の挙動を見守る。
すると彼は、剣の柄の一部分を針金のようなものでつついて、青いコインのようなものを外した。