恋人
思わず、ぞっとした。

その横顔は、おれの知ってる彼女ではなかった。


おれが手離した6年という月日が――こんなにも、彼女を変えてしまったというのか。


「――零……」





彼女が振り向く気配がして、おれは本能的に目を閉じた。


……出ていく気だ。


ただならぬ雰囲気は、すぐに感じとれた。

彼女の虚ろな瞳と、憂いをおびた横顔が、すべてを物語っていた。



今この瞬間に目を開けて、彼女を止めなければならない――頭ではわかっているのに、でも身体を動かすことができなかった。



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