Ending Note
「嘘なんです! あたし、ヘルニアじゃないんです!」
「……えっ?」
裕貴先輩の顔をしかめた表情が胸に突き刺さる。
夕暮れどき。
セミの鳴き声がせわしなく聞こえる。
商店街から少し離れた住宅街。すぐそばの公園で子供たちが楽しそうに遊んでいる。
世の中すべてが時を刻んでいるのに、嘘だと告白した瞬間、あたしと裕貴先輩の間だけ時が止まった。
「……嘘って?」
数分? ううん、本当はたったの数秒かもしれない。
あたしには長く思えた沈黙を破るように、裕貴先輩が訊く。
「えっと……、たぶん、母はあたしを気遣ったんだと思います。それでとっさに、以前おじいちゃんが患ったヘルニアのことをあたしに置き換えて言って……」
「…………」
「それで、あの……」
裕貴先輩はただ黙っていて。
気まずい空気に押されて、あたしもまた、黙り込む。