不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】
彼とは実は一度しかこういう関係にはならなかった。

それは彼が私の事を大切に思っていたからなのか…

それともそういうことにあまり執着のない人だったからなのか…

わからない。


抱きしめられて唇を寄せて、耳元にからかいながら囁かれることはよくあった。

兄弟や姉妹が戯れるように同じベッド眠ることもしばしばあった。

でも彼が私にそういう意味で触れる事は皆無だった。

あの夜以外は…


雨の夜だった。

それは突然のことで、私は何が起こったのかわからず困惑を隠せなかった。

でも結局全てが彼のペースに巻き込まれる…

手慣れた指先に、掌に、なす術もなくただ弄ばれ、

余裕なくしがみつく私を余裕の笑みで見下し、ただ貪るように征服し続けた。

初めてだったのに…

それなのになぜか不思議と怖くなかった。


ただ慣れた行為と余裕のある表情に胸の奥がチクチクと痛んだが、

最中はそんな余裕はもちろんなかった。


その後、長い間誰とも触れ合うことはなく…

結婚式の日の夜、大希さんと晴れて夫婦として結ばれた。

それからの長い年月をかけ馴染んだはずの肌、だったはずなのに…

私の躰には彼との記憶がまだ残っていた。
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