不条理な恋　　　理不尽な愛　　（ベリカ版）【完】

…疑念

「おかえり」

大希さんをいつものように玄関で迎える。

彼はいつものように私に向かって両腕を広げる。

そしてこれから３０秒ほどじっとして私を受け止めるように抱きしめてから放し、

家の中に入っていく…

はずだった。

だが、私はその大きな温もりに包まれた瞬間、

何かに弾かれたようにハッと身体を離し、大きく目を見開き驚いて私を見つめた。

「どうして…」

考え込むような表情でそうつぶやきながら、そのままでじっとしている。

いつもの優しい微笑みは…

なかった。とたんに私は不安になる。何？何がいつもと違うの？

出張で何があったのかよくわからないことが不安だった。

それでも、よくわからないことに振り回されるのが嫌で、

普通通りにしようと心掛けていた。

かと言って…

私の心の中から不安がすべて締め出せているわけではない。

大希さんはたまに心を見透かしているのではないかと思わせるような言動があった。

「ごめん。疲れているのかもしれない。いったん寝室で仮眠してくる。

それから食事をもらうから。心配しないで…」

鞄を私に預けると、俯いて視線をそらし寝室に向かって歩いて行ってしまった。

それから１時間ほどして、寝室から出てきた大希さんはいつもと変わらなかった。

一緒に食事をして瑞希を寝かせ、少しお酒を飲んで同じベッドで寝た。
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