不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】
体外受精は、心身ともに、そして経済的にも…

きつかった。

治療に行って、その後妊娠していないことが分かった時、

俺にできることは、ほのかを抱きしめて涙を拭いてやることだけだった。

そんなことを何度か繰り返すうちに、

ほのかの様子がおかしいことに気付いた。

俺に向かっては微笑みかけていても、どうも何かがおかしい。

心を読んだわけではなかったが、長年の勘からそう思った。

結局、結婚してから落ち着いていた、あの夢に悩まされるようになっていた。

俺はほのかを説得して、治療を一時期中断することにした。



その後落ち着いてから、再度治療を始めるまで1年かかった。

その後俺は気分転換にもなるからとほのかに外へ出るように勧める。

仕事を始めたほのかは毎日忙しそうにしていた。

その仕事が彼女には合っていたのか、それまで沈み気味だった様子が、

徐々に明るくなっていた。

治療のペースは落ちてしまったが、結局それから半年ほどして

36歳になった誕生月、

ほのかは妊娠した。


俺たちに奇跡が起こった。だからこそ、あの夢は怖い。

本当にもう見ていないんだろうか?

俺は、そのことに囚われてしまっていて、本当は見逃してはいけない

ほのかの大切なことにまで目が向かなかった。

それとも、あいつの策略のせいで見えないように巧妙に

隠されていたのかもしれない。
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