不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】
大希さんは隣にゆっくりとした動きで座り、穏やかに語りかけてくる。

目を見開いて固まっていた私は、その瞳に囚われた。

でも次の瞬間、その瞳に全てを見透かされそうで俯く。

「どうした?」

彼はそんな私の行動を見て心配そうに顔をのぞきこんできた。

「なんでここにいるんだ?

昨日病院に行って、大きな問題はないって言われたんだろ?」

私は逆らわずに、こくりとうなずく。

「何か他に気になることでもあったのか?」

彼の手が私の顎に伸びてきて、私の顔を自分に向かせ、

目を見て話をしようとする。

その時タイミング悪く

「佐々木穂香さん。診察室にどうぞ」

と呼び出しがかかった。

私はすぐには返事ができず、ただどうしようかとおろおろする。

「…はい」

大希さんが代わりに低い声で返事をした。私があわてて立ち上がろうとすると、

当たり前のように、私の腰に手を回してグイと押しながら彼も診察室に向かう。


普段は激甘で、一見何でも私の言うことを聞いてくれるように見られている

彼だが、こういう時は強引で、私が何を言っても聞くことはない。

彼は、扉をノックすると

「失礼します」

と言って私を伴いながら中に入っていった。
< 61 / 130 >

この作品をシェア

pagetop