不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】
大希さんだけが一方的に話して診察室に戻る。


「失礼しました。妻は…

今何週目ですか?」

「おそらく7~8週ぐらいです。どうされますか?」

「すいません。今初めて聞いた事なので、話し合って後日伺ってもよろしいですか?」

「こちらは、構いませんよ。佐々木さん。きちんとご主人と相談してくださいね。

あなた一人の問題ではないのですから」

「すいません」

私はただ、詫びるしかなかった。


「もしも、こちらで出産されるおつもりがおありなら早くおっしゃって下さい。

上のお子さんの出産時とは違い今分娩ができる施設も減っている分、

予約なしの患者様はなかなか受け入れる体制が整いにくいので…」

「わかりました」

「他にお聞きになりたいことは?」

「いえ」

「では、今日はもういいですよ」

「ありがとうございました」



彼は丁寧に頭を下げ立ち上がると私の手を引いて診察室を出る。

2人で廊下を歩きながら、会計前にたどりつく。


「次のアポがあるから、ここで別れないといけないが、

家に帰ってゆっくり話そう。今日は10時過ぎるけど…

気を付けて帰りなさい」

私はただうなずいた。大希さんは私の頬に手を当てて、

「ほのか…」

しばらくそのまま私を見つめていたが、名残惜しそうに手を下ろして…

行ってしまった。

私は、ただその後ろ姿を座ったまま見送った。
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