不条理な恋 理不尽な愛 （ベリカ版）【完】

「おかえりなさい」

玄関まで歩いて出迎える。

ドアを開けて立つ私に向かって彼はいつものように両腕を広げる。

私は最初戸惑ってその場に立ち尽くしていたが、

大希さんは両腕を広げたまま一歩前に出て、

やさしくこちらの顔をのぞきこみ微笑みかけてくれた。


色々と怖い気持ちも強かったが、勇気を振り絞って歩き出し

その腕の中にゆっくりと納まる。

ふわっと彼の薫りに包まれ、安心する温もりを感じる。

そんな時間のはずなのに…

この前からしばらく時間が過ぎたはずなのに…

その温かい胸に触れたその瞬間に、体が無意識でビクっとしてしまう。

出張から帰ってからの時のように拒絶されたらと思うと怖くて…

でもあれ以来彼は、もう私を押しやることはなかった…


今日も３０秒ほどじっと受け止めるように抱きしめてから放して

「ただいま」

と静かに微笑んでくれた。

私はこうやってどんな時も、大希さんの温もりに守られて生きてきた。

それは親友だった時も、夫婦になった今でも変わらない…

この人をだましてまで…

あんな大それたことをしなければいけない必要があったのだろうか？

でも私の感じる不安の全てを打ち明けることは…

決してできない。

それには私の愛したあの人が関わっているから…