不条理な恋   理不尽な愛  (ベリカ版)【完】
彼はその名を呼んだだけで、散らばった荷物を拾い始めた。

私のように動揺は全くない。


全ての持ち物を拾い上げ袋に詰めると、

「ほぉちゃんだよね?ひさしぶり。元気にしてた?」


両手に紙袋を下げ、屈託のない笑顔で近づいてきて

こともなげに私に尋ねてくる。

まるで、久々出会った友達に声をかけるようだった。

そんな…

そんな…

彼はもうこの世にいなくなった人間になっているはずだった。

私が何年も何年も探し求めても、見つからなかった人。


「本当に?」

それだけをやっとのことで言葉にして驚く私の両手を取り、

引っぱって立ち上がらせてくれた。

それでも私は足が震えて、立っているのがやっとだった。

信じられない光景、現実に頭が回らない。


あの頃と変わらない屈託のない笑顔。右頬浮かぶエクボ…

どうして?あれだけ探しても消息の欠片も出てこなかったのに、

なんで、なんで今頃?

なんで今なの?今日なの?ここでなの…

私はまた悪夢を見ているのだろうか?

彼に再会するけど…

これから拒絶されるのだろうか?

そんなのイヤダ!!

そう思った瞬間に私の目の前は気持ちと同様に歪んでぐちゃぐちゃになった。
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