見栄っ張り症候群【完】
“私が転ばないように手を握ってくれて、下駄の鼻緒が切れて歩けなくなった私をおぶってくれる、かっこいーい彼氏い”
ふと、さっき自分が口にしたセリフを思い出してゆっくり顔を上げれば、トータの後頭部が目に入って、
「あ」
無意識に小さく声が漏れた。
“汚い靴で、我慢して”
“お前、すぐ転ぶだろ”
――トータなりに、気にしてくれてたの、かな。
私、別にあんなの、本気で言ったわけじゃないのに。
でも嬉しい。そんなの、とっても嬉しい。嬉しいに決まってる。
どうしてこんなに、好きになっちゃうんだろう。
頬が火照ってく。明るい道に出て、小さく振りかえったトータが
「足、痛くねえ?」
優しい言葉をくれるから、慌てて俯いて小刻みに首を横に振った。
「大丈夫、全然、私は。……トータこそ、裸足で痛くない?」
「全然。余裕余裕」
「嘘だ、強がらないでよ」
「強がってねえよ」
でも、と更に反論する私をわかっているためか、トータはうざったそうに私を無視して歩きだす。腕は支えてくれたまま。