見栄っ張り症候群【完】
「そ、そうじゃなくて」
「……」
「トータが似合うって言ってくれたから。やっぱり浴衣には、運動靴より下駄の方が似合うでしょ」
「あーあーあー。調子に乗るな。いいから黙って歩け。運動靴でも下駄でも大して変わんねえから」
トータは私の頭をぽんぽんと軽く撫で、また歩きだそうとするから、待って、とまた渾身の力で引きとめた。
今、伝えたいことがあるんだよ。すごく言いたい言葉があるの。
気持ちが一気に喉元まで押し寄せて、固く閉じていた口をゆっくり開いた。緊張して、喉がカラカラだ。でも不思議と、怖くない。
「す、好きな人の前だから、いっぱい可愛くいたいの!」
私なりの告白。のつもり。
声が震えたし、顔は絶対真っ赤だし、多分私、果てしなくかっこ悪いけど。
そろそろ友達じゃなくて、幼馴染とかじゃなくて、もっと、特別な関係がほしいの。ずっと前からそれを望んでいたの。
「……は?」
「……」
「好きな人? 誰?」
「あ、あんただ、気付けバカ」
え。
とつぶやいたトータの顔も、暗がりの中で赤くなっていくのが見て取れた。
だ、だめだ。なんでトータまで赤くなってるの。予想外の反応に私は更に顔が熱くなる。