見栄っ張り症候群【完】
それを脱いで下駄に履き換えようとすれば、
「ばっかじゃねー」
下駄はトータの手によって宙に浮かされ、私の足がそこに収まることはなかった。
「な、何すんのさ」
「鼻緒切れてただろ。こんなんでどうやって歩くんだよ」
「……あ」
わ、忘れてた……。うっかりしてた。そうだった。
恥ずかしくなって俯けば、とんとんと優しく頭を撫でられる。
顔を上げれば、いつもよりは穏やかな笑顔のトータが私を見ていた。振られたばかりなのに、そんな笑顔にもキュンとしてしまう。
よかった、普通にしてくれて。私の告白を聞いても、気まずい雰囲気にさせてくれない。そこがトータの良いところ。大好きなところ。
……あー、なんだかな。また、気持ちが全部あふれてしまいそうだ。ついでになんだか、泣いちゃいそう。
「いいよ、俺の靴履けよ」
「……けど、」
「大丈夫大丈夫、気にすんな」
「……い、いい、私大丈夫だから。このまま歩くから」
首を振って、トータの手から下駄を奪い取り裸足のまま駅へ向って歩き出す。
優しくされると、嬉しいけど、なんか辛い。