見栄っ張り症候群【完】
「なんだよお前、素直じゃねー」
「と、トータには言われたくな……」
後ろから唇を尖らせているであろうトータの声がして小さく振り返れば、その隙に裸足の私は泥のぬかるんだところを踏んでしまったらしく、
「うわっ」
危なく転びそうになって、思わず叫んだ。
ああ、そうだ、雨の影響で地面がぐちゃぐちゃなところがあるんだ。すっかり忘れてた。
「何やってんだよー。お前はおとなしく俺の靴履いて歩けっつーの」
「大丈夫だって……!」
「ほら、また、浴衣に泥はねてる」
私の足元でしゃがみこんだトータが、浴衣の裾を面倒くさそうにほろっていく。
確かに白地のそこには、真新しい茶色の染みが斑点のようについていた。
もう、浴衣は散々だな。クリーニングに出したらとれるのかな。
……来年は、この浴衣でトータと歩くこともないのかなー。
なんてらしくなく切なく思いながらお礼を言えば、
「……まあ、靴履いたって、泥は浴衣についちゃうよな」
「え?」
ひとり言のように、考え込むように言って欠伸したトータは、身を低くしたまま私に向かって背を向けた。
……なんなの?