見栄っ張り症候群【完】
小さな声とはいえ、私の拒否の意思はトータに伝わっているはずなのに、彼は気にせずとんとんと浴衣の裾を払っていく。
けれど、さっき私がやって無理だったんだ。泥はもちろん取れるはずなく。
布一枚越しに伝わるトータの体温が暖かくて、頬が紅潮していくのが分かった。
「やっぱ白だから目立つな。……せっかく浴衣、似合ってないこともなかったのに」
「……」
急にそういうこと、言う。
絶対私今、首まで真っ赤だ。
「……さっき、慣れない格好って言った」
赤い頬に気付くな、こっち向くなよ、なんて思いながら、私の浴衣に意識を集中させているトータのつむじらへんをじっと見つめていた。
彼の髪は明るい茶色だったはずなのに、夜の暗闇のせいでいつもより暗い色に見える。
実は私は、トータには茶髪より黒髪の方が合っていると思っていたから、少し余計にドキドキしてしまう。
「似合わないとは言ってないだろう」
「……」
……なんだよ、もー。心臓に悪い。
ふーっと息を吐いて、冷たい自分の両の手のひらをを火照った頬に当てた。ひんやりしていて気持ちいい。