見栄っ張り症候群【完】
「……黙んなきめえ。ありがとうくらい言えバカ」
「……だ、だって……っ」
だって、なんて言ったらいいかわかんなくて。どんな顔したらいいのかわかんなくて。
トータは、どんな顔をして、何を思ってるんだろう。
一向に顔を上げない彼を見下ろしながら、そのままでいてほしいような、表情を知りたいような。
「トータ」
「なに」
「もう一回言ってよ」
「……は?」
ようやく顔を上げてくれた彼は怪訝そうに眉をしかめていて、
「何を?」
あたしに問いかける。
「に、似合ってるって。浴衣、褒めて」
「……はあ?」
できれば、ボイスレコーダーかムービーかに保存しておきたいけど、トータは嫌がるだろうから。
せめてもう一回だけ、鮮明に耳に記憶しておきたい。
だけれど、
「調子のんなブス」
と、予想通りというかなんというかデコピンを食らってしまった。