吸血鬼が幽霊になって何が悪い!
確固たる証拠もなく、口先だけの約束はすぐに破綻することはわかっていたし、執行官は肩を揺らして笑っている。
「私は指さえ動けばいいの……ピアノが弾ければいいの」
セイラは部屋の三分の一のスペースを独占しているピアノに視線を向けた。
遊びでは買えない代物だ。
「ヘッドホンをして音楽を聞きながら歩いていたら車に撥ねられて……やめなさいってお母さんに何度も注意されていたのに……」
セイラは後悔の涙を目に浮かべる。事故に遭ったのは運が悪かっただけでなく、自分のミスもあったようだ。
「記憶がなくなったら、お父さんやお母さんのことを忘れたまま現実の世界へ戻されるんだぞ」